名古屋地方裁判所 昭和53年(ワ)192号 判決 1979年8月31日
原告
佐伯てる子
被告
水野紀之
ほか一名
主文
一 被告浅井芳樹は原告に対し、金二八六万七七一〇円及びこれに対する昭和五一年四月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告の被告浅井芳樹に対するその余の請求及び被告水野紀之に対する請求はいずれもこれを棄却する。
三 訴訟費用は、原告と被告浅井芳樹との間に生じた分はこれを一〇分し、その一を同被告の負担とし、その余を原告の負担とし、原告と被告水野紀之との間に生じた分は原告の負担とする。
四 本判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自原告に対し、金二五四九万七七三六円及びこれに対する昭和五一年四月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する被告ら三名の答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五一年四月一七日午後三時五五分
(二) 場所 名古屋市中川区昭和橋通七丁目路上(以下、本件事故現場という。)
(三) 加害車
(1) 訴外成田純一運転、被告水野保有の普通乗用自動車(名古屋五一も四〇二一号、以下、水野車という。)
(2) 被告浅井運転の自動二輪車(名古屋み四二一号、以下、浅井車という。)
(四) 被害者 訴外亡佐伯栄治
(五) 事故の態様
浅井車に訴外栄治が同乗して本件事故現場を東に向け直進中、同車が反対車線から転回していた水野車に衝突し、これがために、訴外栄治は頭蓋骨々折、脳挫傷の傷害を受け、昭和五一年七月二四日死亡した。
2 責任原因
被告水野は水野車を、被告浅井は浅井車をそれぞれ自己のために運行の用に供していた。
3 損害
(一) 訴外栄治の治療費 三二四万一三八三円
(二) 訴外栄治の入院雑費 五万九四〇〇円
訴外栄治は昭和五一年四月一七日から同年七月二四日まで九九日間名古屋掖済会病院に入院したが、右入院期間中一日六〇〇円の割合による入院雑費
(三) 付添費 二四万七五〇〇円
一日二五〇〇円の割合による入院期間九九日間の付添費
(四) 休業損害及び逸失利益 三一七六万七〇四六円
訴外亡栄治は本件事故当時一六歳であり、昭和五一年三月調理師学校を卒業し、同年四月より原告の経営するレストラン「佐伯屋」にて調理師の仕事を始めたばかりであつた。しかして同訴外人は少なくとも年間二四八万九三四〇円の収入をあげることができたところ、本件事故発生の日から死亡までの九九日間は稼働することができず、したがつて、その間の休業損害は六七万五一九〇円となり、本件事故がなければ、その後六七歳に達するまでは右程度の収入をあげることができ、生活費として五〇パーセントを控除してその間の得べかりし利益をホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時におけるその現価を算定すると三一〇九万一八五六円となり、右訴外人は同額の得べかりし利益を喪失した。
(五) 訴外亡栄治の慰藉料 七〇〇万円
(六) 原告の支出した葬儀費用 六九万八九八〇円
(七) 原告の慰藉料 三〇〇万円
原告は訴外亡栄治の母であり、かつ、相続人であるが、原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料は三〇〇万円が相当である。
(八) 弁護士費用 一五〇万円
(九) 相続関係及び損害の填補
原告は訴外栄治の死亡により、相続人として右訴外人の地位を承継した。したがつて、前記(一)ないし(五)の相続によつて取得した分をも含めて原告の損害額は合計四七五一万四三〇九円となるが、自賠責保険より一八一〇万円、任意保険より一二四万一三八三円の支払を受けたので、原告の損害額は差引二八一七万二九二六円となる。
4 よつて、原告は本件事故に基づく損害の賠償として内金二五四九万七七三六円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五一年四月一七日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求る。
二 請求原因に対する認否
(被告水野について)
1 請求原因1の事実中、(一)ないし(四)は認め、(五)の内訴外栄治が傷害を受け、死亡したことは認めるが、その余は争う。
2 同2の被告水野が水野車の運行供用者であることは認める。
3 同3の事実中、原告が訴外亡栄治の母であることは認めるが、損害の点については争う。
(被告浅井について)
1 請求原因1の(一)ないし(四)は認め、(五)の内水野車が反対車線から転回中であつたとの点は否認し、その余は認める。
2 同2の被告浅井が浅井車の運行供用者であることは認める。
3 同3の(一)及び(二)の内訴外栄治が九九日間入院したこと、(三)の付添の事実、(四)の同訴外人が事故当時一六歳であつたこと、(七)の内原告と右訴外人との間に母子関係があること、(九)の内損害の填補の点はいずれも認めるが、その余は知らない。
三 被告水野の抗弁等
1 本件事故は、訴外亡栄治の同乗する浅井車が時速一〇〇キロメートルを超える速度で水野車に後部から激突したものであり、これがために、ヘルメツトも着用しないで浅井車の後部に乗つていた右訴外人が衝突の反動でふつとび、街路樹に頭をぶつけて受傷し、死亡するに至つたもので、被告浅井及び訴外亡栄治の一方的過失に基づくものである。
2 仮に、被告水野に責任があるとしても、訴外亡栄治にも過失がある。すなわち、同訴外人は、被告浅井と一緒になつて高速走行によるスリルを求めて浅井車に同乗していたのであり、同被告が右訴外人を乗せて毎時一〇〇キロメートルに及ぶ速度で疾走するのをあえて制止することなく、かつ、ヘルメツトを所持してはいたが、実際には着用もしていなかつたのであるから、訴外栄治には被告浅井の過失以上の過失があり、その割合は九割以上にも及ぶ。
四 被告浅井の抗弁
1 仮に、被告浅井に責任があるとしても、訴外亡栄治についても次のような過失がある、すなわち、同訴外人は、被告浅井が同訴外人を同乗させて毎時一〇〇キロメートルに及ぶ速度で疾走するのをあえて制止することなく、むしろ同被告と一緒になつて高速走行によるスリルを求めて同乗していたこと、しかも、同訴外人は浅井車に同乗するに際し、ヘルメツトを所持していたが、実際にはこれを着用せず同乗していたのであつて、本来ならば、同乗者はヘルメツトを装着してみずからの身体の安全を保護すべき義務があるのみでなく、運転者の危険発生を予測させるような走行については、その運転を中止させる等安全運転を行なわせて、危険発生を未然に防止すべき義務があるのに、これを怠つたもので、訴外栄治には本件事故に関しては被告浅井と同程度の責任があり、五割以上の過失相殺がなされるべきである。
2 原告は本件事故に関しては原告の自認するほかに、被告浅井の父である訴外浅井英雄締結の自動車保険による搭乗者傷害保険金二〇〇万円を受領したから、原告の損害額からこれを控除すべきである。
五 抗弁に対する認否
原告が被告浅井主張の搭乗者傷害保険金二〇〇万円を受領したことは認めるが、その余の被告らの抗弁は争う。
第三証拠〔略〕
理由
一 先ず、本件事故の態様及び責任の有無につき検討する。
原告主張の日時、主張の場所において、加害車である水野車及び浅井車と訴外栄治との間に交通事故が発生し、同訴外人が傷害を負つて死亡したことについては、当時者間に争いがない。
しかして、成立に争いのない甲第六、第七号証、原告と被告水野との間においては成立に争いがなく、原告と被告浅井との間においても真正に成立したものと認める乙第三ないし第六号証(乙第三、第四号証はそれぞれ丙第一、第二号証と、乙第五、第六号証はそれぞれ丙第四、第五号証と同一であり、右丙号各証は原告と被告浅井との間においては成立に争いがない。)、証人畠山安仁の証言、被告浅井芳樹本人尋問の結果を総合すると、次の事実を認めることができる。
1 本件事故現場付近は歩車道の区別のある幅員三三メートルの舗装された東西道路と歩車道の区別のない幅員七メートルの砂利敷きの南北道路とが直角に交わる信号機の設置されていない交差点であり、右東西道路は金網張りの中央分離帯(幅員一メートル)を境に両側は片側三車線(幅員一〇・五メートル、一つの車線幅は三・五メートル)の車道と歩道(幅員五・五メートル)からなる見とおしのよい直線道路であり、右交差点部分は長さ一八・五メートルにわたつて中央分離帯はなく、規制としては最高速度毎時五〇キロメートルとなつている。
2 被告水野は水野車の助手席に訴外畠山安仁を同乗させて前記東西道路を西進し、本件事故現場付近の前記交差点にて、もときた方向に転回すべく前記中央分離帯の切れ目から方向転換にかかり、一旦中央線付近で一時停止し、西方の反対車線上をみたところ、右車道上には遠くまで一台の車両も走行しておらず、ただ、約九五メートル西方の地点に東進してくる浅井車を発見したが、十分に転回できる距離関係にあつたので、毎時二〇キロメートル位の速度で右東進車線の歩道よりの車線に入るように斜めに走行していたところ、浅井車が猛速で進行してくるのが判つたので、被告水野は歩道寄りの車線と中央の車線の境の破線付近まできたあたりで、これ以上自車を左の歩道寄りによせることは危険に思い、そこでハンドルを右に切つて浅井車をして水野車の左側方を通過させようと思つたとき、自車の左後部側面に浅井車が激突し、被告浅井は前方約一二・九メートルの地点に、訴外栄治は前方約一四メートルの地点にまで飛んで転倒した。
3 一方、被告浅井は、自車の後部に訴外栄治を同乗させて前記道路の歩道寄り車線を時速約一〇〇キロメートルで東進し、本件事故現場にさしかかつた際(右訴外人同乗の事実は原告と被告浅井との間においては争いがない)、右前方約一一二メートル東方の前記中央分離帯の切れ目付近に水野車を発見しようと思えば発見できたのであるが、これに気付かないまま東進を続け、水野車との距離が約六六・八メートルになつた地点で水野車が東進車線を傾めに転回しているのを発見した。しかるに、被告浅井は減速することもなく、漫然前記速度のまま東進を続けたため、前記水野車の左後部側面に衝突し、前記のとおり被告浅井は訴外栄治とともに前方にはねとばされた。なお、浅井車が水野車に接触した地点は前記北側の歩道端から約二・三メートルの地点であり、浅井車が水野車に接触するまでには約七・九メートルのスリツプ痕が路上に印されていた。
4 被告浅井は訴外栄治とは中学校時代の同級生であり、昭和五一年三月同被告において両親から浅井車を買つてもらつてからは、暇があれば訴外栄治とともに浅井車を乗りまわし、ともにスピードを出してそのスリルを楽しんでいたこと、ところで、訴外栄治は自動二輪車の免許を取るため同年四月頃から名古屋市港区にある名古屋自動車学校に通つていたのであるが、本件事故当日右訴外人は友人の自動二輪車で右自動車学校まで送つてもらい、被告浅井も右二輪車と行動を共にして自動車学校までついて行き、その間授業の終るまで右自動車学校で待機していたこと、右授業終了後、訴外栄治は被告浅井の運転する浅井車に同乗させてもらつて本件事故現場にさしかかり、その際被告浅井は訴外栄治とともにスピードを出して楽しんでいたのであるが、同訴外人から被告浅井に対しスピードの出しすぎに対し制止することはなかつた。なお、訴外栄治は本件事故当時はヘルメツトを所持していたが、これを着用してはいなかつた。
以上の事実を認めることができ、これに反する証拠はない。しかして、被告水野が水野車の運行供用者であること、被告浅井が浅井車の運行供用者であることについては、当事者間に争いがないので、被告らはそれぞれ訴外亡栄治の被つた損害につき賠償の義務があるものといわなければならない。
被告水野は、本件事故は被告浅井及び訴外亡栄治の一方的過失に基づくもので、被告水野には過失がなかつた旨主張するけれども、前記認定の事実によれば、被告水野が東進車線に向つて転回するに際し、浅井車の行動に十分注意をすれば、同車との衝突を避けることができたものというべきところ、そのような危険はないものと軽信し、東進車線を歩道寄りの方向に向つて斜めに進行していて衝突事故を惹起せしめたものであることが認められ、右事実に照らして被告水野には全く過失はなかつたものということはできないので、被告水野の右主張は採用することができない。
二 そこで、訴外亡栄治及び原告の損害につき検討する。
1 訴外栄治の治療費について
本件事故に基づく傷害の治療費として三二四万一三八三円を要したことは、原告と被告浅井との間においては争いがなく、また被告水野に対する関係においては成立に争いのない乙第七号証によつてこれを認めることができる。
2 訴外栄治の入院雑費について
成立に争いのない甲第一号証及び原告本人尋問の結果によると、訴外栄治は本件事故による受傷のため名古屋市中川区所在の名古屋掖済会病院に昭和五一年四月一七日から同年七月二四日まで九九日間入院していたこと(右九九日間入院していたことについては、原告と被告浅井との間においては争いがない)が認められ、右入院期間中一日六〇〇円の割合による合計五万九四〇〇円を要することは経験則上これを認めることができる。
3 付添費について
訴外栄治が九九日間入院していたことは前記のとおりであり、原告本人尋問の結果によれば、右入院期間中付添看護を要したことを認めることができ、その間一日二五〇〇円の割合による合計二四万七五〇〇円を要することは経験則上認められる。
4 休業損害及び逸失利益について
訴外亡栄治が本件事故当時一六歳であつたことは、原告と被告浅井との間においては争いがなく、原告と被告水野との間においては成立に争いのない甲第一号証によつて、右の事実を認めることができ、原告本人尋問の結果によると、訴外栄治は亡父と母である原告との間の長男であるが、父は昭和四四年死亡し、その後、原告が従業員四名を使つて家業の飲食店を経営してきたこと、ところで、原告は右訴外栄治が昭和五〇年三月中学校を卒業した後は、家業の飲食店を継がせるため、同年四月から一年間名古屋の調理師学校に通わせ、昭和五一年三月からは栄治に店を継がせる考えのもとに、一か月一二万円程度の給料のほか一か月分の賞与を出す予定であつたことが認められ、右事実に昭和五一年賃金センサスによつて認められる旧制中学、新高校卒の一八歳から一九歳の男子の平均賃金が賞与その他の特別給与をも含めて年間一一九万九六〇〇円であることを考え合わせると、訴外栄治は本件事故当時、少なくとも年間右と同額の賃金をあげるだけの労働能力を有していたものと認めるのが相当であり、しかして、同訴外人が本件事故発生の日から死亡するまでの九九日間は全く稼働することができなかつたことは明らかであるから、その間の同訴外人の休業損害額は次の算式どおり三二万五三七〇円となる。
1,199,600×99÷365=325,370円
次に、死亡による逸失利益についてみるに、弁論の全趣旨によれば、訴外栄治は死亡当時も一六歳であつたことが認められ、本件事故当時の同訴外人の得べかりし一か年の平均賃金が一一九万九六〇〇円と認むべきことは前記のとおりであるところ、同訴外人の就労可能年数は死亡時から五一年であり、亡栄治が近い将来、一家の中心的存在となる立場にあつたことをも考え、生活費としては収入の四〇パーセントを控除し、同訴外人の死亡による逸失利益を年別のホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して本件事故当時の原価を算定すると、その額は次の算式どおり一七九八万二一九五円となる。
したがつて、訴外亡栄治の休業損害及び逸失利益の合計額は一八三〇万七五六五円となる。
1,199,600×(1-0.4)×24.9836=17,982,195円
5 慰藉料について
原告が訴外亡栄治の母であることについては当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果によると、同訴外人の死亡により、原告がただ一人相続人として右訴外人の地位を承継したことが認められ、本件事故の態様、訴外亡栄治の受けた傷害の部位、程度、その他同訴外人が近い将来原告方における中心的存在となる関係にあつたこと、その他諸般の事情を考え合わせると、同訴外人及び原告が多大の精神的苦痛を受けたことは推認するに難くなく、右苦痛に対する慰藉料としては、同訴外人につき金六〇〇万円、原告につき金三〇〇万円とするのが相当である。
6 葬儀費用について
原告本人の供述により真正に成立したものと認める甲第二ないし第五号証に原告本人尋問の結果を総合すると、原告は訴外栄治の葬儀を執行し、それに関連した費用として六九万八九八〇円を支出したことが認められる。右事実に照らして、本件事故による損害として賠償を求め得る葬儀費用は五〇万円をもつて相当とする。
三 被告ら主張の過失相殺及び好意同乗の点につき検討する。
以上の事実によれば、相続により取得した分をも含めて原告の損害額は合計三一三五万五八四八円となるところ、被告水野に対する関係においては、前記一において認定したとおり、訴外栄治は浅井車に同乗して同車の運転者である被告浅井に対しスピードの出しすぎを制止するでもなく、却つて同被告とともに高速運転のスリルを楽しんでいたものであつて、右訴外人は被告浅井が浅井車に対して有する運行支配または運行利益を同被告とともに分ちあい、みずからも被告浅井と同様の立場にあつたものと評価することができ、また訴外栄治は浅井車に同乗して事故を起した当時はヘルメツトをも着用していなかつたのであり、右事実に被告浅井の過失の態様、その他諸般の事情を合わせ考えると、被告水野に対する関係においては原告の前記損害の七割を減ずるのが相当であり、そうだとすると、原告の被告水野に対して請求し得る損害額は九四〇万六七五四円となるところ、原告においてその自認する受領額を差引くと、その残額は存在しないことになる。
次に、被告浅井に対する請求につき検討するに、訴外亡栄治が被告浅井に対する関係においていわゆる好意同乗者たるの立場にあり、しかも同被告とともにスピード感を味わい、むしろこれを容認していたこと、しかも、前記のとおりみずから安全保持の義務をも果たしていなかつた点に鑑み、訴外亡栄治にも過失があつたものというべきであり、信義則及び過失相殺の適用により前記原告の損害額から三割を減ずるのが相当である。
そうだとすると、原告の被告浅井に対し請求し得る損害額は二一九四万九〇九三円となるところ、原告において右損害額の内一九三四万一三八三円を受領していることは原告の自認するところであるからこれを差引くとその残額は二六〇万七七一〇円となる。
四 被告浅井は前記損害額から原告において受領した搭乗者傷害保険金二〇〇万円を控除すべきである旨主張する。
しかして、原告が右金二〇〇万円を受領したことは当事者間に争いがないが、搭乗者傷害保険は、被保険自動車に搭乗中の者が被保険自動車の運行に起因する事故により身体に傷害を被つたとき、搭乗者傷害危険担保特約に従つて保険金が支払われるものであり、搭乗者傷害危険担保特約によると、事故発生に際し支払われる保険金の額が通常、実際に生じた損害に応じて定まるものでなく、傷害の種類や程度などにより一定していること、また保険会社が被保険自動車に搭乗中の被保険者に対し保険金を支払つた場合でも、被保険者またはその相続人がその傷害について第三者に対し有する損害賠償請求権は保険会社に移転しないことを定めていることは当裁判所に顕著な事実であり、右事実に徴すれば、右保険金が支払われたとしても、右は損害賠償額から控除すべきものではないと解するのが相当であるから、被告浅井の前記主張は採用することができない。
五 弁護士費用について
本件事案の内容、審理経過、認容額に照らすと、原告が被告浅井に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は二六万円とするのが相当である。
六 以上説示のとおりであつて、原告の本訴請求は被告浅井に対し以上合計金二八六万七七一〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五一年四月一七日から支払ずみに至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるのでこれを認容し、その余の請求及び被告水野に対する請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 白川芳澄)